【8/10動画追加】ブイラボミュージカル「鏡よ鏡よ鏡さん」稽古場レポート

 2023年7月中旬、ブイラボミュージカル「鏡よ鏡よ鏡さん」の稽古場にお伺いしました。到着し扉を開け挨拶をしながら一歩入ると、気さくな関西弁と共にブイラボミュージカル主宰の滝井サトルさんが出迎えて下さいました。

 稽古開始15分までにはほとんどの子供達は集まっており、子供達はウォーミングアップも兼ねて?稽古場を駆け回っていました。

稽古スタート後のウォーミングアップの様子。音楽に合わせて桃太郎やキジのポーズを取っていました。

 そして稽古はスタート。滝井さんから「久し振りだからこの日はM1から復習していく」旨を伝えられると、子供達は声を挙げて盛り上がります。ミュージカルナンバーも順番に歌い歌唱指導もありましたが、この日最も時間を割いたのが、滝井さんの演技指導。

歌唱指導の一枚。本番と同じ様にくれあさん(右)が前に立ち、彼女に向かって歌う子供達。

 『気持ちも内面もオッケー。でも外に出てくる音(声)が70点なんだよ。過去(KAKO)の「K」をちゃんと言わなあかん。今は「あこ」に聞こえる。中【心】と外【声】をイコールにするのがお芝居。』といった言葉があったり、「だったらいっそう」と言う言葉を例文を交えながら、どういった時に使う言葉なのかを伝えたり、言葉を大切に考えさせる指導がまず印象に残りました。

関根凛さん(左)・松﨑燕さん(中央)と動きについて確認するアカリ役の村松愛美さん(右)。頼りになるお姉さんです。
アカリを元気付ける大切な友達のヒビキ役岡嶋杏依さん。優しさ溢れる笑顔が印象的です。

 また、アカリのところに5人が駆け寄るシーンでは、縦に一直前に並んでしまい、下手側のお客さんにとって壁になってしまっていて、『みんな一直線になっているの分かる?ここ(下手)のお客さんにはみんなの背中しか見えへんねん。自分の気持ち良いところまで行っちゃうとお客さんが気落ち悪いのよ。お客さんに見せるショーだから。』とステージングについてもアドバイス。

カメラは下手側から。ステージの高さも考えると下手側からはアカリの表情が見えなくなりそうです。

 「過去をバネにして今の状況を乗り越えるの!」とみんなに言うアカリの台詞では、『乗り越えられそうな感じで言ってごらん。そうするとみんなが「どうやって?」と喰いつくわけだ。(例えば)餌を与えて餌を与えて、「結局分かんねえじゃん」の台詞で(撒いた餌が)「まずっ」となって「うわぁ・・・」となっていく(様に)。』という説明を行った後、さらにかみ砕いて『「はい、お菓子あげるよ~」ともらって箱開けたら「空っぽかい!」とかそういった感じ。』といった具合に子供達への分かりやすい言葉での指導が続いていきました。

左から桃太郎役 くれあさん、白雪姫役 龍満花歩さん、シンデレラ役 並木心春さん、浦島太郎役 定田桜歩さん、金太郎役 栗林茉莉花さん。壊れた絵本のキャラクターをコミカルに演じる様子にも注目です。
稽古中の思わずくしゃみが飛び出し笑いに包まれます。真面目に台詞を話していた村松さん(右端)は床に転がるほどの大笑い。

 稽古中、子供達が感じた事を次々と質問していて、風通しの良い稽古場だという印象を持ちました。例えば、金太郎役の栗林茉莉花さんがシンデレラに対し「後悔先に立たず」と言うシーン。『一回煽るじゃないですか?後悔先に立たずって。それなのに急に助けに行くのはおかしいんじゃにないかなって・・・』という質問が栗林さんから飛ぶと『良い意見じゃないですか。』と褒めた後に、『バカにするんじゃなくて、ちょっとだけからかってみれば良いじゃないですか?「バカにする」と「からかう」ではどっちが愛がありますか?「からかう」の方がまだ優しく無い?』と微妙なニュアンスの違いを伝える流れに持って行ったりと、ちょっとした呟きに対しても『どうしたどうした?どこがやりにくかった?』と汲み取っていく滝井さんの姿勢には、子供達への敬意が伝わってきました。

質問をする栗林茉莉花さん。気さくに聞ける稽古場の雰囲気はみんな居心地が良さそうです。
ミュージカルナンバー終わりの決めポーズ。

 初のキッズミュージカルとは思えないほどスムーズに進行している稽古。そこには、かつて大手子役養成所の演技指導講師や、自ら校舎に足を運び小学校学習発表会の指導を行うなど、教育的な立場にも多数立っている経験が大いに活かされている事が感じられます。そんな滝井さんが描く今回の作品はどういったものなのか?お忙しいなか貴重な時間を割いて頂き、今回の公演についてお聞きしました。

◼️キッズミュージカルは長年の「夢」「目標」

ーこれまでジュニアキャストの出演も度々あったとはいえ、ブイラボミュージカルと言えば大人キャストを中心とした作品を上演するカンパニー。なぜこのタイミングで初のキッズミュージカルを上演する事になったのでしょうか?

 ブイラボミュージカルを立ち上げてもう7年(※2015年9月設立)くらいになるのかな?キッズミュージカルをやりたいというのが長年の夢であり目標でした。ただ自分にノウハウも無く、敷居が高い感じがしているなかでコロナ禍になった事もあり、なんかこうふんぎりが付かなかったんですけれども、去年の夏くらいから「来年くらいには劇場の規制も減って行くんじゃないか。」という情報を耳にしまして、「これは演劇の神様からのプレゼントじゃないか!」と思い、夏休みに何かお子様達に最高の経験をしてもらいたいと強く思いまして、劇場を取りました。

ー「夢」「目標」という言葉に、長年の熱い想いがひしひしと伝わってきます。それでは今作のストーリーについて教えて下さい。

 1日に(最低でも)1・2回は鏡を見ると思うんですけれども、鏡のなかの自分に対して、容姿もさることながら、自分というものがどう映っているのか?という事を、ご観劇頂いた方が「今の自分って、自分で自分を認められる自分なのかな?」と考えてもらえる作品をお子様達と共に作りたいと思いまして、なんとなく「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?」という言葉が(まず浮かびました)。キッズミュージカルと考えた時に、桃太郎や金太郎などが(頭の中に)降りてきまして、シンデレラや白雪姫なども加えて、自分を好きになれない人達が、自分を好きになっていくまでの物語を紡げないかと思い(書き上げました)。当然ミュージカルや演劇にありがちなセオリーとして、主人公はある葛藤やドラマを抱えています。

ーまずコンセプトや原案が出来るまでを伝えてくれた滝井さん。続いて本題のストーリーについても切り込んで下さいました。

 単純にどこにでも居る少女・・でもこの言い方にはミソがあって、「みんな違っていていい」という言葉があるように、どこにでも居る少女なんだけれども、沢山ドラマがある主人公のアカリ。

 彼女は幼稚園の頃から絵本が大好きで、おばあちゃんに読んでもらう絵本を耳元で聞きながら眠りに落ちていくようなおばあちゃんっ子だったアカリですが、歳を重ねるにつれて、絵本の世界が絵空事だと感じ、段々と絵本から離れていく訳です。絵本に時間を割く事も減っていくなかで、おばあちゃんは孫の成長を嬉しく思いながらも、孫との時間が少なくなっていくことに一抹の寂しさを感じながら、孫はダンスのお稽古に向かうという場面から始まります。

 学校で好きな事を発表出来る学習発表会があり、歴史や昆虫の成長、宇宙の秘密などを発表する子が居るなかで、アカリと親友のヒビキはダンスを踊る事を選び稽古に勤しんでいるんですが、(ある日)おばあちゃんが絵本を読みたかったにも関わらず、ダンスの稽古を選んでしまったアカリ。奇しくもその日におばあちゃんは突然の死を迎えます。おばあちゃんが亡くなったその日から、「自分があの日そばに居れば救急車を呼べたかもしれないし、そばに居る事によって死を回避出来たかもしれない。」という、負い目・責任が彼女を支配してしまい、人前で笑えなくなってしまいます。笑顔がトレードマークのはずなのに、笑えなくなってしまうというのが、「どこにでもいる女の子」なんだけれども、「その子にしかないドラマ」なんです。

 アカリはその日からダンスを踊ろうとしてもトラウマで踊れなくなります。遺品整理のなかでお母さんに「絵本どうするの?」と聞かれ、アカリが絵本を開けると、絵本が壊れているんですよね。桃太郎が鬼に勝てなかったり、金太郎が相撲でクマに負けたり、浦島太郎がおじいさんになりたくないから玉手箱を捨てたり、白雪姫が毒リンゴと食べて気を失うのが嫌だから食べなかったりとか、シンデレラが12時の鐘の時に階段を降りるのが面倒臭くてエレベーターを使いガラスの靴が割れちゃったりとか、よく分からない物語になっているんです。アカリが何故だと思った時に、アカリは自分のせいで物語が壊れたんじゃないかと考え、なんとか元に戻したいと色々と画策していくというのが物語の流れとなります。

脚本・演出の滝井サトルさん。20分超のインタビューを身振り手振りを交えながら熱くパワフルに語って頂きました。

■毎日は単なる繰り返しじゃない。

 私が演劇を作る時に大事にしている事は、誰もが人生の主役であり、誰もが誰かの脇役でもあって、そういった相関関係のなかで我々は社会生活を行っていると思うんです。

「なぜ学校に行かなければならないんだろう?」「なぜこの家に生まれて繰り返し過ごさなければいけなんだろう?「なぜこの仕事に就いたんだろう?」と(日々の)繰り返しに辟易する人達に、「実は繰り返してはいないんだよ、受け取る側によってイメージが変わってくるんだよ」と。
 おばあちゃんと読んだ桃太郎。友達と読んだ桃太郎。大きくなって、子供の為に読んだ桃太郎。(それぞれ)全然違う桃太郎だから、絵本の中の君達は毎回同じ事をやるだけでいいんだ。それが受け手には違う風に見えるし、毎日の繰り返しは似ている様だけど、実は日々アップデートされて、繰り返す事っていうのは悪い事ではないかもよという部分を落としどころにしています。

ーここから先についても熱く語って頂きましたが、続きは劇場での本番をぜひご覧下さい。子供達と共に作り上げるブイラボミュージカル「鏡よ鏡よ鏡さん」。今から楽しみです。

稽古密着動画
公演情報

■タイトル:「鏡よ鏡よ鏡さん」
■公演日程:2023年8月24日(木)・25日(金)
■会場:三鷹市芸術文化センター[星のホール] 〒181-0012 東京都三鷹市上連雀6-12-14

■スタッフ
脚本・演出 滝井サトル
音楽・演奏 田中和音
振付 榎本愛子
歌唱指導 藤川梓
振付助手 阿部このみ
演出助手 熊本弥文

舞台監督 阿部健
照明 志佐知香(FictiF)
音響 田中慎也
美術 ミヤサカタカシ
制作助手 菅原愛(a-fiction)/長村友里江
パーカッション 阪本純志
映像編集 ピスタチオ/もしやのもやし
衣装協力 田中いずみ
ヘアメイク協力 田中千香
稽古場補助 池田祐弥/田中雄也

協力 音響芸術専門学校/Angel Pro/スタッフ・テス株式会社/テアトルアカデミー/MOU2プロダクションbyしありんく/リトル・ミュージカル
後援 八王子市教育委員会・三鷹市教育委員会
 
企画製作 (株)Vラボ-ミュージカル

あらすじ

私の名前はアカリ、6年生。

親友ヒビキとのダンス練習の日、大好きだったおばあちゃんが天国に旅立った。そしてその夜、おばあちゃんが読んでくれていた絵本の内容が変わってしまった。鬼に勝てない桃太郎。ガラスの靴が割れたシンデレラ。熊に逃げられた金太郎。玉手箱を捨ててしまう浦島太郎。毒リンゴを食べたがらない白雪姫。

これはおばあちゃんが旅立った夏に起きた、私とヒーローたちの、少し不思議で、そこそこ温かい物語。

キャスト

アカリ 村松愛美
ヒビキ 岡嶋杏依

桃太郎 くれあ
シンデレラ 並木心春

金太郎 栗林茉莉花
浦島太郎 定田桜歩
白雪姫 龍満花歩

サル吉 保科日菜佳
キジリン 金子桜彩
ワン子 佐藤文音
熊次郎 大川泰駕
おカメ 嶽間澤結衣

ミニチュ 柳谷燈
チビチュ 石塚珠莉

スマイル 関根凛
ねむちゃん 松﨑燕
くしゃみん 岡田雪乃
おすまし 下迫華
てれるん 大川舞
おこぷん 木村來愛

母 熊本弥文
先生 阿部このみ
魔物 藤川梓

プロフィール

滝井 サトル(たきい さとる)

舞台演出家。脚本家。ブイラボミュージカル主宰。奈良県出身。
95年神戸大学教育学部卒。阪神淡路大震災をきっかけに演劇の道を歩むことを決意。老若男女に支持されるエンタメ作品を創ることに定評がある。豊島区民演劇教室、成田市演劇ワークショップ、知的障がい者との作品作り、都立三田高校や川崎市立登戸小学校学習発表会指導など教育的な現場も多数経験。大手子役養成所演技指導講師も務める。コロナ禍を機に八王子に移住。小学校中高国語教員免許有。50歳。
2023年8月には初のキッズミュージカル「鏡よ鏡よ鏡さん」の脚本・演出を担当。

同氏を中心に2015年9月に結成された「ブイラボミュージカル」は、オリジナルミュージカルの製作と人材育成を理念に活動を展開しており、これまで大人キャストを中心とした多数のオリジナル作品を上演している他、幅広い年代を対象にしたレッスン・ワークショップを実施しています。

情報は記事作成時のものです。必ず公式サイトにて最新情報をご確認下さい。

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